デジタルマーケティング界隈において、ここ数年間で多くの頭字語(GDPR、ITP、ETP、CCPA、IDFAなど)が生まれました。どれも将来に対して暗いイメージを抱きがちな単語ですが、ついに「RIP(安らかに眠れ)」までたどり着いてしまったようです。GoogleがChromeブラウザで、2022年にサードパーティCookieを廃止すると発表したことが最大の理由にあたります。

マーケティング担当者はChromeのサードパーティCookieの廃止にしっかり向き合い、対策を講じる必要があります。

そこで今回は、Capgeminiのグローバルインサイト データプラクティス シニアディレクターであるGunjan Aggarwal氏と、Tealium 北米・中南米&メキシコ 地域 ソリューションコンサルティング副社長であるTed Sfikasに、サードパーティCookieの廃止がマーケターと消費者に与える影響とデジタルマーケティングの将来について話を聞きました。

サードパーティCookieの廃止になぜ注目しなければならないのか?

Cookieは、1994年頃(英語)に、初期のeコマースサイトで見逃されていた顧客体験へのインサイトを得るための手段として作られました。それまではほとんどの消費者が実店舗で買い物をしていたので、Cookieの導入により実店舗の運営者たちは大打撃を受けました。

サードパーティCookieは、ファーストパーティCookieと同様に、ウェブ体験に関するデータを異なるウェブサイトに保存する単一のテキストファイルです。ログイン状態、プライバシー設定など、ウェブページ間で顧客データを使用することができます。顧客体験は大幅に向上しますが、消費者のプライバシーに対する関心の高まりと共に、サードパーティCookieへの信頼性にも疑念が持たれ始めたのです。

Sfikasは「ファーストパーティCookieは、アクセスしたウェブドメインから作成され管理されます」と説明します。「ウェブサイト所有者は、分析データの収集やサイト設定を記憶し、他のテクノロジーに基本的なユーザーデータを提供するためのファーストパーティCookieを作成します。大事なこととして、ファーストパーティCookieは、それを作ったドメインでしか読み取ることができず、ユーザーが他のサイトに移動しても他のウェブサイトでは読み取ることができません。」

ファーストパーティCookieは、複数サイトでの追跡を目的としたクロスサイトトラッキングを目的としていないため、廃止されることはないでしょう。ファーストパーティデータは1つのブランドやテクノロジーの特定ドメイン内で円滑なウェブ体験を提供します。一方、サードパーティCookieは、いくつものドメインで作成されたデータを収集することで、クロスサイトトラッキングを可能にしているのです。

Sfikasは「サードパーティCookieは、ユーザーが現在アクセスしているドメイン以外のドメインで作成され管理されます。サードパーティCookieを作成することで、そのユーザーが複数ブランドのウェブサイトにいても、外部テクノロジーがユーザーのデータにアクセスできます。これが従来、クロスサイトトラッキング、リターゲティングといったような広告配信を可能にしてきました」と続けます。

マーケターにとってサードパーティCookieは、より関連性の高い広告を、より関連性の高いオーディエンスに表示することを容易にしましたが、サードパーティCookieが急に廃止されることとなった今、対応策を打たなければなりません。(AppleのSafariとMozillaのFirefoxブラウザは、Google Chromeに比べてユーザーのアクセス量は非常に少ないものの、サードパーティCookieをすでに廃止しています。)

より良いマーケティング基準の構築

ここ数年のマーケターたちは、ブラウザがファーストパーティCookieとサードパーティCookieの利用方法を変更するたびに、その場しのぎで対応してきました。しかし、2022年にサードパーティCookieが廃止されると、今までのような対応策では通用しなくなってしまいます。

Sfikasは「確かにマーケティング業界は大きく混乱していますが、長年にわたって行われてきた大きな動きの一部として、ごく自然な一歩であると感じています。特に、プライバシー規制の観点では、企業がデータを取得、保存、および利用する方法に重点をおいており、サードパーティCookieの廃止は、マーケティングテクノロジーから顧客自身へプライバシーの管理が移行されたことを意味します。」と言います。

EU一般データ保護規制(GDPR)やカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)などのプライバシー規制は、消費者を保護する目的としてCookieを制限しようとしています。これらのプライバシー規制法により、ウェブサイトでのCookie使用を受け入れるかどうかを尋ねるバナーがウェブサイト上で表示されるようになりました。

サードパーティCookieは、デジタルマーケティングの歴史において、その大部分を占めるほどの重要度があったものの、マーケターにとっては完璧とはいえないツールで、繰り返しトラブルも引き起こしていました。

Aggarwal氏は「サードパーティCookieにはドメインによってそれぞれ有効期限があり、効果的なトラッキングを同期させるには専門的な技術が必要です」と説明します。「広告サプライサイドテクノロジー(デマンドサイドプラットフォーム)とデータプロバイダ(デマンドマネジメントプラットフォーム)間のクッキー合致率は60%しか期待できません。広告主は常に最適なターゲティングを行うため、KPIを抑える必要があります。また、ほとんどの広告サーバーでは、表示回数やクリック数を検出できるCookie数をカウントしています。Cookieは常に更新され、異なるデバイス間では同じCookieを使用できないため、インプレッションは多く、コンバージョン数は少なく表示される現象が起こります。」

Aggarwal氏は「この現象によって、広告費の浪費と、増加したフリークエンシー キャップ(一人のユーザーへの同一広告表示回数上限)、および抑制活動における時間の浪費などがあります」と続けます。

サードパーティクッキーが廃止されれば、企業はデジタル広告を配信するにあたって新しい手段を探さなければなりません。しかし、企業はこれをチャンスと見なすべきです。

Sfikasは「人々は長年データプライバシーに関する懸念に対して、ブランドが対応してくれることを望んできました。今日のデジタル広告の要件を満たすセキュリティ技術を組み合わせたガバナンスと自動化された新しいイノベーションを通じて、企業は顧客プライバシーとカスタマーエクスペリエンスへの取り組みを結びつけました。」

マーケティングでのカスタマーエクスペリエンスにおける新しい規範となる考え方は、データの収集から活用までの全データを企業が管理することを求めています。マーケターは、プライバシーとガバナンスに関してさらに理解を深める必要があります。そのためには、チーム内でより緊密な連携を心がけることで、顧客のプライバシーに焦点を当てたアプローチが行われるだけではなく、ファーストパーティデータが通貨のような価値を持つものになるため、消費者との関係もより密接になるでしょう。

サードパーティCookieの無い世界の新技術と戦略

サードパーティCookieが廃止され、ファーストパーティデータ中心のマーケティングに移行すると、マーケターはカスタマーエクスペリエンスについて再考する必要が出てきます。消費者それぞれのプライバシープリファレンス(好み、優先度)は、消費者との永続的な関係を構築するために必要なデータを収集する上で重要なステップになります。

個人がデータの不正な取り扱いで企業を訴えることができるようになると、企業は使用しているデータが個人のプロファイルとプライバシー権限に関係しているかどうか調べることになるので、ID照合がこれまで以上に重要になります。

Aggarwal氏は「新しいマーケティング環境では、マーケターと広告主は、Eメール、電話番号、顧客IDなどの永続的なIDに顧客データをつなげて活用する必要があります。企業が適切なテクノロジーを使い、Cookieのないオンライン環境で顧客データの関連性を維持するには次の戦略が必要である」と言います。

  • ファーストパーティデータを一元化する
  • 組織全体でファーストパーティデータを共有する
  • 顧客ベースのデータプロバイダとセカンドパーティデータを使って、ファーストパーティデータを充実させる
  • パブリッシャーと直接連携して顧客データを活用する

今後、企業にとって必要なのは、Eメールのような明確な識別子に顧客の動きを結びつけたアトリビューションモデルです。IPアドレスのような曖昧なデータポイントを通じてアトリビューションを構築する確率的モデリングは、ブランドの価値を高め続けマーケティングのアトリビューション指標になりますが、サードパーティCookieが廃止になると、このモデリングは構築できなくなってしまいます。

Aggarwal氏は「サードパーティCookieに取って代わるものは何もありません」と続けます。「カスタマーデータプラットフォーム(CDP)は代替手段ですが、適切なテクノロジーで補完する必要があります。CDPは、マーケターが顧客情報を取り扱い、プライバシーに関するコンプライアンスを強めるとともに、クロスチャネルでパーソナライゼーションを促進できます。これは、CDPのID照合テクノロジーにより、マーケターと広告主がオンラインまたはオフラインを問わず、IDとデバイス間でファーストパーティデータの一元化を可能にしました。」

現在、顧客データの問題の解決に役立つ多くのCDPベンダーが存在します。しかし、顧客プライバシーを重視しCookieの廃止に伴ってマーケターが方向転換する中、データの一元化を重視するCDPのみがマーケターにとって貴重な資産になります。

Sfikas氏は「現在の、データファーストなCDPでは、テクノロジーがコンプライアンスを念頭に置いてサードパーティデータを取得すれば、サードパーティCookieの廃止に対応することができると同時に、活用の見込みがあるデータを維持するサーバーサイドのデータ収集などにおける最新技術を有効的に利用することもできます」と説明します。

つまり、サードパーティCookieデータに依存するテクノロジーは引き続き利用できますが、ブランドは新しいデータを収集し、価値のある情報を提供し続けていく必要があります。マーケターたちは、顧客が自分のデータをブランド側に提供することについての理解を得られるよう、ブランドで一丸となって働きかけていかなければなりません。

Sfikas氏は「マーケティングを企業で行うにあたって、組織内であらゆる職種の人たちがお互いに協力し合える新しい働き方が必要です」と言います。「それが楽しみな部分でもあります。法務、マーケティング、IT、情報セキュリティなどの 専門家グループがこのように協力することを促したのは史上初めてのことで、顧客もより恩恵を受けることでしょう。」

Aggarwal氏は「消費者の同意管理プロセスは、他の消費者との定期的なエンゲージメントと並行して行われる新しいエンゲージメントジャーニーです」と言います。

コンセントマネジメントプラットフォーム(CMP)やCDPなどのテクノロジーを使用して、顧客の同意データを顧客それぞれのデータに紐づけることは、未来のマーケティングを開拓する鍵となります。マーケターが価値のある顧客体験の提供とプライバシー保護の両方を考え、広告配信とパーソナライゼーションを同時に行います。

これら2つの取り組みをしないと、今後マーケティングを行うことががますます困難になります。たとえ現在マーケターがやっていることがうまくいっていても、実証可能なROIの損失は、マーケティング予算の損失にもつながります。

ブランドへの消費者の信頼構築

ファーストパーティデータ戦略に切り替え、サードパーティCookieの機能を置き換える新しいツールセットを使用することで、最終的に消費者はブランドを信頼するようになります。

Sfikasは「今までブランドはサードパーティCookieを使って、消費者のためにすべてを決定しているような印象を与えてきました。ニュースサイトやソーシャルプラットフォームで広告を表示する許可を企業に与えることなど、誰も考えていなかったでしょう」と述べています。「しかし過去10年間の大きなデータ漏洩により、プライバシーを懸念するようになった顧客は、ブランドへより多くの要求をするようになりました。」

顧客との信頼関係を構築することに焦点を当てたブランドは、データを戦略的資産と見なしています。顧客データに責任を持ち、顧客体験の質を向上させるためにデータを使用しているということを顧客に示せれば、顧客の信頼とブランドロイヤルティを維持できる可能性が高くなります。

Sfikasは「顧客体験の質が向上したのは、間違いなくデータプロファイリングとデータ使用方法を誠実かつ明確に消費者に提示できた企業です。現在、消費者は自分たちのデータがなぜ重要であるかをきちんと理解しています。それがデータを共有する潜在的な動機へとつながるのです」と続けます。

ついにマーケターがサードパーティCookieの廃止に伴い行動を起こすべき時が来ているのです。ファーストパーティデータ戦略については、こちらのホワイトペーパーもご一読ください。

また、ファーストパーティデータ戦略についてより詳しく知りたい方は、こちらのオンデマンドウェビナーをいつでもご視聴になれます。

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Ray Orgunwall
Ray is the Director of Website Development at Tealium

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