デジタルトランスフォーメーションのゴールが変わり続ける中、多国籍企業はどのように独自の取り組みを始めるべきでしょうか? データガバナンス部門と共に、会社の重要な資産である顧客データの信頼性を高めることから始めましょう。

毎年、「新しい」デジタルトランスフォーメーションについて、その意味や重要性、達成方法、必要となるテクノロジーなどが語られますが、本質的には、私たちは依然として同じ課題を抱えています。
2019年、デジタルトランスフォーメーションのリスクは、経営幹部にとって最大の関心事でしたが、これらの取り組みは未だ失敗が多いのが現状です。McKinseyによる調査では、デジタルトランスフォーメーションによってパフォーマンスを向上し、長期的な変化を維持できた企業はわずか16%でした。
それでも、デジタルトランスフォーメーションは依然として重要なビジネス目標です。最近のMasergyによる調査では、 テクノロジーの意思決定者の80%近くが、デジタルトランスフォーメーションは企業の存続にとって重要であると述べています。

80%の方がこのように考えるのも不思議ではありません。消費者は急速にデジタルチャネルを利用し、ウェブから始まり、 現在ではモバイルエコシステムで1日3.5時間費やすようになっています。世界的なFacebookやUberなど初めからデジタル化されている企業は、変化する消費者のトレンドや新しいエンタープライズテクノロジーにすばやく適応可能です。しかし、多くの企業は、移行が難しい大規模構造とレガシーシステム(過去の技術や仕組みで構築されているシステム)に対処する必要があり、このようなレガシーシステムを刷新することは容易なことではありません。

平均的な企業が、SaaSスタックの40%以上を2年ごとに変更していることを考えると、多国籍企業によるこれらの変更はより困難だと言えるでしょう。

したがって、デジタルトレンドの課題は、「古くなった」テクノロジーを最新のテクノロジーに置き換えることで、目標が常に変化していることです。デジタルトランスフォーメーションを持ち上げては落とすという、果てしなく続くムダな作業の課題を企業は抱えているのです。複数のブランドや顧客接点を持つ企業にとっては、この課題はさらに大きなものです。その一方で、単一の製品のみを扱っている、または特定の地域のみで事業をおこなっている企業は、組織全体の新しいテクノロジーやプロセスに適応するためのアジリティがあります。しかし、異なるブランドやチーム、地域、言語にまたがってデジタルトランスフォーメーションを展開するとなると、複雑さは増します。

デジタルトランスフォーメーションでよく起こる、この繰り返される問題をどのように打開し、先へ進めば良いでしょうか?

デジタルトランスフォーメーションの核心を理解する

デジタルトランスフォーメーションと言うと、通常、AI / ML、ブロックチェーン、より優れた分析、5G接続などの新しいテクノロジーが話題になります。しかし、HBRは、これらをデジタルトランスフォーメーションの考え方の中心にすると失敗をもたらすと述べています。

基本的にデジタルトランスフォーメーションが失敗するのは、ほとんどのデジタルテクノロジーが効率化や顧客との親和性を高める可能性を提供するからです。しかし、企業の人員に変革のための適切な考え方が欠けていて、さらに業務プロセスに欠陥がある場合、デジタルトランスフォーメーションは単にその欠陥を拡大するだけです。

新しいテクノロジーは新しい可能性を提供しますが、新しい可能性は「ビジネスを行うには、顧客とビジネスがどのように機能しているかを理解する必要がある」という当たり前の真実に行き着きます。そして、その真実の中心にあるものこそデータなのです。

かつては、実店舗で働く従業員のグループ内の知識として存在していた「データ」は、現在では組織内のすべてのSaaSプラットフォーム、ノートパソコン、データウェアハウス、スプレッドシート、紙の記録などに分散され、多くの場合サイロ化された状態で存在します。デジタルトランスフォーメーションによって、これらのサイロ化したデータはデジタルデータへと移行しましたが、これらの異なるテクノロジー全てとデータを共有することは非常に困難です。

したがって、デジタルトランスフォーメーションの目的は、企業が「デジタル化する」ことではありません。企業が変革しなくても、世界では多くがデジタル領域で運営されているからです。デジタルトランスフォーメーションの取り組みの目的は、テクノロジーとそれを使用する人々の間の障壁を取り除き、情報の交換をシームレスにすることです。そのためには、テクノロジーを変えるのと同じくらい、人々の考え方や働き方を変える必要があります。

この課題は、ビジネス組織が大きく複雑になるのに比例して大きくなりますが、その核心は変わりません。問題への「ソリューション」としてテクノロジーを使ったとしても、組織全体の考え方や組織の慣行を変えない限り、失敗を繰り返してしまうでしょう。

KPIとして信頼する

では、デジタルトランスフォーメーションの原動力がテクノロジーでないとすれば、それを成功させるための指針はなんなのでしょうか。

答えはデータの信頼性です。

信頼性があらゆるデジタルトランスフォーメーションの取り組みの指針となるべきものであり、その信頼を浸透させるための共通項目とは、ツールではなくデータです。

HBRの調査によると、最も緩い基準でデータ品質を評価した結果、「許容できる」と評価された企業はわずか3%でした。さらに、新規作成されたデータレコードの平均47%で、少なくとも1つの重大な(たとえば、作業に影響を与える)エラーが発生しています。デジタルトランスフォーメーション テクノロジーで不良データを入力すると、当然のごとく不良データが出力されます。

したがって、企業の規模に関係なく、デジタルトランスフォーメーションに取り組む際には、信頼を基盤に設定することが重要です。しかし、前述したように、大企業になるほど複雑さが増すためデータの信頼性を築くのはより困難になります。

次に、その課題への対処法について説明します。

データガバナンス部署の設立

部署間、企業間、経営幹部に至るまで、あらゆるレベルのデータの信頼性を高めるにはどうすれば良いでしょうか。多くの企業にとって、データはブラックボックスの中にあります。データがどこから来て、最終的にどうなるかは知っていても、その間に起きていることはわからない場合がよくあります。透明性の欠如がデータを信頼できないものにしているのです。

CCPAやGDPRのようなプライバシー規制のある世界では、データの透明性の欠如によってデータ漏洩につながったり、データ削除(忘れられる権利)の要求に対応したりする場合に、非常に大きなコストがかかることになります。データ規制がなかったとしても、企業のデータの透明性を確保するためのデータガバナンス部署の必要性がおわかりいただけるでしょう。

異なるブランドや部署を持つ企業では、重複するツールやサービスセンターを使用していることがよくあります。サービスセンターやブランドでは、データとツールは共有していますが、それぞれ独自の成功に重点をおいています。つまり、彼ら自身のユースケースの範囲を超えたデータ品質には重点をおいていません。データの透明性と保護に対する最高責任者が誰もいない場合がよくあるのです。

一部では、デジタルトランスフォーメーションは断片的にテクノロジーが購入されて推進されているため、そのたびに新しいデータサイロが作成されます。その上、これらのテクノロジーを所有する部署が作成したデータを過剰に保護しているかもしれません。データの透明化を負担に感じるかもしれませんが、サイロ化されたデータによるリスクははるかに大きくなります。

さらに、全社的なデータガバナンス部署の欠如は、企業が消費者のブランド間での体験を見逃しているということを意味します。ブランドの品揃えが似ている企業、つまり同じ消費者がいるブランドの場合、ブランド間の体験を合理化することは理にかなっています。ただし、無関係の消費財を販売する異なるブランドを持つ大規模な複合企業でさえ、ブランドを横断するデータガバナンスの取り組みから恩恵を受けられます。

これらの課題に対処する1つの方法は、機械学習を使用することです。これにより、これまで考えられていなかったインサイトを収集できます。さまざまな業界の消費者に関する想像を絶する量のデータを持つ企業の場合、企業全体でデータガバナンスに取り組むことで、普遍的なルールに基づいてデータの収集と保存を行い、複数のブランド間でデータの互換性を確保することができれば、堅牢なML戦略を準備できます。しかし、データガバナンス部署が企業全体の基準を監視しなければ、MLプロジェクトは非常に困難になります。

しかし、機械学習に取り組むためには成熟したデータ組織が必要であり、 大多数の企業はそこまで至っていません。それどころか、データに関しては、企業の状況は悪化している可能性があります。最高データ責任者(CDO)の役割が増えたにもかかわらず、 2019年に、データ主導の組織を作りたいと述べた企業はわずか31%で 、2017年の37.1%から減少しています。

大企業が組織全体のデジタルトランスフォーメーションを成功に導くには、独立したデータガバナンス部署が、データが資産ではなく負債になる場所を特定する必要があります。

次にその方法をご紹介します。

データガバナンスを企業およびすべての部署にわたる戦略的なビジネス構想にする

データガバナンスは、テクノロジーであると同時に、人材とプロセスが重要です。トップダウンの賛同を得ることで、「データガバナンス部署」の設立が可能になります。

データガバナンス部署 / センターオブエクセレンス(卓越した研究拠点)を設立する

企業全体をカバーするデータガバナンス部署は、データの取り扱いに関するルールや規範を確立するだけでなく、データの幅広い用途を考慮していない可能性のあるエンドユーザーとは異なる視点から、新しいテクノロジーを検証することができます。

すべてのデータと記録システムを計画する

大企業では、システム間のデータフローは独特です。おそらく、古いオンプレミス テクノロジーと、最新のSaaSやクラウドベースのサービスが、複雑に組み合わされているでしょう。

透明性が欠けている箇所を特定する

データの監査を行います。データのサイロ化を引き起こしている部署やテクノロジーがないか探してみてください。

問題を解決するために必要なプロセスと変更するテクノロジーを特定する

データがある場所、見失っている場所がどこなのかを把握すれば、データの問題を解決するために変更が必要なプロセスとテクノロジーを判断できます。そのためには、統合機能の改善や不足している機能を補うための新しいテクノロジーを購入する必要があるかもしれません。

***

データガバナンス部署は、企業のデータに信頼をもたらすことが目的です。カスタマーデータプラットフォームによる顧客データの標準化など、企業全体のデータ戦略の前に、データガバナンス部署を設立することで、「テクノロジーを購入してもその価値が低下してしまう」というデータ品質の問題に対処する機会を得ることができます。

Post Author

Shinsuke Umezawa

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