スマホなど顧客接点の多様化、COVID-19が加速するオンラインシフト、急速に進化するフィンテックの影響を受けた日本の金融業界は、ビジネス変革が待ったなしの状況となっている。
新しい時代を乗り切るためには、従来型の効率性優先の業務から、顧客に寄り添う観点で評価される価値を提供しつづける体制を構築する必要がある。
2021年3月11日にTealium Japan株式会社主催で開催された「金融業界のCX向上によるビジネス変革」ウェビナーでは、伝統的な組織・運営を乗り越え新しい価値を顧客に届けている4社の金融機関が集結し、現代の金融機関が立ち向かうべきチャレンジを定義し、自社のノウハウを惜しげもなく公開している。その中には、千葉興業銀行によるデジタルマーケティング施策の効果を金額ベースに可視化したROI分析も含まれている。金融業界の先行きを考えている人すべてに必見の内容であったと言える。
本ウェビナーではまずTealium Japan株式会社の石垣 謙氏から「ティーリアム / カスタマーデータハブ プライバシー規制に準拠したデジタルマーケティング」と題して、世界で強化されるプライバシー規制の動向と、規制に対応するためのTealium Customer Data Hubが紹介された。
Tealium Japan株式会社
石垣 謙氏
Tealium Customer Data Hubはタグマネジャーによる同意管理機能とCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)機能が一体となった製品である。
世界的に定評あるタグマネジメント機能に同意管理機能が搭載され、さらにCDPと一つの製品で網羅しているため、様々な接点からデータを一元的に集めて活用しながら、顧客の同意取得、同意内容の管理、同意に基づく施策実行管理を一元的に行うことができるようになった(図1参照)。
図1 Tealium Customer Data Hub全体像と同意管理
また石垣氏は、Tealiumがウェブサイトにおける顧客様対応のプラットフォームとして動作する例を説明した(図2)。
図2 ローン審査におけるTealiumの活用例
Tealiumを活用すればカードローン審査を申請した顧客に対し、審査結果に落ちた顧客への広告を媒体横断で停止する一方、手続き途中で止まっている顧客へはコールセンター、メール、SMSを活用し契約促進を図るような自動プロセスをSQLを用いることなく簡易に構築できるようになる。さらに見積シミュレーションから契約締結まで一貫した顧客フォローアップの仕組みを手動でのリスト抽出する事なく自動で作れるようになるため、プロモーションの機動的な展開なども用意になるメリットもある。Tealiumの活用が金融機関によるCX向上のカギだと言える。
石垣氏に続いての登壇は、千葉興業銀行 営業企画部 チャネル企画室 副調査の田中啓亮 氏による「地銀におけるカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)向上の取り組み」である。田中氏は2011年に千葉興業銀行に入行され、現在は同部にて顧客との非対面接点の強化施策企画、事務策定に取り組まれている。
千葉興業銀行 田中 啓亮氏
千葉興業銀行では新中期経営計画の中で、「非対面取引の拡大」を営業戦略の柱の一つとして取り上げています。実務を担当する田中氏は、店頭(対面)での親身な接客を実現する方法としてCDPの活用を検討した。CDPの利用により、お客様が商品購入を検討している事実を早く捉え、最適なタイミングでアプローチし、他行との差別化要因としようとしたのである。
田中氏は多くの非対面チャネルの課題の中で、特に勘と経験により手動でメッセージ配信対象者のリストを作成」していたこと、「当行Webサイトから収集できるお客様1人ごとの属性データやWebサイトでの申し込みの途中離脱者へのフォロー」ができていないこと、そして「コールセンターの収益性改善」の3点に取り組むことに決定した。その課題に取り組むために、田中氏が選んだCDPパートナーがTealiumであった。
Tealiumの選定理由は、まずTealium製品はお客様一人一人の行動に応じて、リアルタイムで属性情報を付与(バッヂ機能)できるからである。コールセンターとの連携や、SMS配信、渉外部門との連携を可能にする顧客フォローアップリストを容易に作成できる。またウェブでのリターゲティング広告の配信制御もこのバッヂ機能で実現可能だ。
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図3 Tealiumにおけるバッヂ機能の活用 |
図4 同意管理機能(リリース前版)
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さらに、日本における個人情報保護法改定を見据えた同意管理機能を持ちたかったこともある。Tealium iQタグマネジメントには、国際標準にも対応できる同意管理機能が搭載されている。現在、千葉興業銀行では顧問弁護士と相談し、同意管理表示の開示時期を検討している。
さらに、田中氏は千葉興業銀行が実施したローン申込み離脱者向け施策も紹介した。施策の目的はコンタクトセンターによるコンタクト率の向上を通じて、マイカーローン申込率をアップすることである。Tealiumを用いてサイト訪問者の離脱箇所を検知し、滞在時間などともにデータを吐き出し、顧客フォローリストとして見える化を図る。そのリストを元にコールセンターはアプトバウンドコールをかけていく。
実際の運用では、午前中にSMSを送りリアルタイムに開封検知を行い、午後からティーリアムでコール対象者の属性が付与されたユーザに対してアウトバウンドコールを実施している。アウトバウンドコールをかける際には、Web上での行動履歴を活用し、興味や関心の高い顧客を優先的にフォローし、コンタクト率・コンバージョン率の向上を図った。その結果、1回のキャンペーンで約270万円(目安)利益を獲得できた、との報告があった。
図5 顧客属性や申込み離脱者を把握したコールセンター連携
最後に田中氏は、Web広告配信回数のコントロールをTealiumで行い、チャネルをまたいで広告露出をコントロールする計画があると明らかにした。
なお田中 啓亮氏の本講演はオンデマンドで視聴可能である。
本ウェビナーの最後に、千葉興業銀行に加えて、山形銀行、肥後銀行、JCBの3社が参加し、パネルディスカッションが開催された。山形銀行、肥後銀行、JCBはいずれもTealiumを利用しているユーザである。各社におけるデジタルマーケティングの課題と対策、Tealiumの導入理由や活用方法など多岐にわたるディスカッションが展開された。
山形銀行 営業企画部 チャネル戦略室の遠藤あかね氏によれば、山形銀行では無担保ローンのWeb申込フォーム離脱者が多い問題があったが、Tealiumのリアルタイム顧客行動把握機能を使って対応したと説明した。さらに紙のDMをすべて廃止しSMS配信、およびアウトバウンドコールとの連携により、無担保ローンに関する施策実施コストを6分の1に削減できたとの報告がなされた。なお山形銀行の事例はTealiumの日本サイトにて公開されている。
肥後銀行 経営企画部デジタルイノベーション室の田﨑秀成氏は、Tealium導入以前は「そもそもデジタルなコミュニケーションチャネルが不足していた」と説明する。「既存のウェブサイトのアナリティクス、アプリ、SMS等の通知チャネル等はそれぞれに操作・管理が必要で、運用負荷が高く、結果として十分に活用されていなかった。」と述べる。そこでTealiumの導入により、まず各チャネルと連携した高いUXの実現とマーケティングコストの効率化、および施策の自動化によるオペレーション負荷の低減を図った。そして次の段階として、社内のCRMとの連携により、リアルとバーチャルを融合した顧客体験を創出したい、と意気込む。さらに田崎氏は、企画部門のITリテラシーの向上と挑戦できる組織風土が企業のデジタルシフトを進める上で重要と説明した。この田崎氏の指摘は、多くの企業、金融機関に当てはまる内容だと考えられる。
パネルディスカッションに参加したJCB カード事業統括部門 マーケティング部 マーケティング戦略室 主幹の大串 昌博氏のミッションは新規カード会員の獲得および既存カード会員のカードの利用促進である。入会や利用促進の為のオンラインプロモーションは年間100本単位、eDM(電子メール)配信は月に120-130本に上る。主にカードサイトや特に既存会員の場合はMyJCB・eDMによるコミュニケーションが重要になってくる。一方、My JCBへのアクセスは平均すると一人あたり月1.2回ほどの訪問なので、数少ないお客様との接点で、どれだけお客様に合った情報をタイムリーに提供するかが勝負になる。そこで配信したeDMをクリックした顧客のニーズを瞬時に捉えて、即時性のあるご案内を実現できるTealiumの採用に至った。Tealium採用以前は月単位でかかっていたコミュニケーションがプロセスの自動化により即時に実現できた。顧客の年齢、性別、地域の区分だけでなく、ライフステージ、興味検討具合、趣味嗜好などを含めて1人1人に寄り添ったOne to Oneマーケティングが可能となったのである。また強化されていくプライバシー規制に応じて、欧州GDPR対応の同意管理機能もグルーバルサイトではすでに活用中であり、日本においても実装を行う予定である。なお、JCBの事例もTealiumサイトからダウンロードできるため、ぜひ活用していただきたい。
本ウェビナーは、千葉興業銀行、山形銀行、肥後銀行、JCBといった金融機関の現場で活躍する四名が同時に参加する、極めて野心的な試みであったが、デジタルマーケティング、CDPという分野でそれぞれの金融機関が抱える共通課題が明らかになった点でも有意義であった。その共通課題と対策をまとめると、次のようになる。
- 顧客接点が多様化する中で、デジタル接点の強化は必須
- 成功のためには、リーダーの理解とともに、トライ&エラーの精神が必要。お客様とのコミュニケーションを繰り返し、施策を改善していく必要がある。
- パーソナライゼーション(個客化)が最も重要なアクション。新しいテクノロジーを活用し、一人一人のお客様を見える化すること、それもリアルタイムで把握し、アクションできるような仕組み作りが効果的
- 同意管理は世界の潮流。日本でも必ず必要になるため、準備を進める必要がある