Tealium Japan主催の年次カンファレンスイベント「Digital Velocity Japan 2022」が、2022年6月1日にオンラインで開催されました。6回目となる今回は、「THE ULTIMATE CX EVENT」と題し、最高のCX(顧客体験)の実現に向けて、Tealiumを活用しているユーザー企業、パートナー企業が登壇し、最新のCX戦略を紹介しました。イベントの内容を振り返ります。
アフターコロナに向けて顧客接点の強化へ
新型ウイルス感染症の影響により、デジタル接点の拡大と消費者の購買行動の変化が進み、企業のマーケティング活動は転換点を迎えています。個々のプライバシーを尊重しつつ、最適化されたOne to Oneコミュニケーションを早急に確立するためには、あらゆる接点からのデータを取得し、顧客1人ひとりの解像度を高めていく必要があります。
開会に先立つ挨拶では、Tealium Japan株式会社 カントリーマネージャーの酒井 秀樹が「Tealium Customer Data Platformをマーケティングプラットフォームとして活用してもらうことで、最高のCXを共に築いていけると考えています。業界リーダーが一堂に会する貴重な機会を活かし、CX向上に役立ててください」と語りました。
【ユーザー事例講演】ANA X株式会社
Tealiumを活用してCX(顧客体験)を最大化する
ユーザー事例のトップバッターとして登場したのは、ANAマイレージクラブの企画・運営、タッチポイントの活用等を行うANA X デジタルマーケティング部 マネージャーの大日向 健人氏です。同社では、マーケターが発掘した顧客インサイトに基づく施策の実行基盤にTealiumを活用しています。活用範囲は、顧客行動をリアルタイムに検知して、顧客に対してアクションを行うまでです。例えば、顧客が「空席照会」のアクションを起こした際には、Tealiumが検索行動を検知し、必要に応じてバナー広告を表示したり、メール広告を配信しています。
同社では現在、Tealiumを活用して年間200本程度の施策を実施しています。1カ月程度で企画を立案し、3日~1.5カ月かけて実行して、1~2週間の配信後に数日かけて検証するプロセスです。実施した企画には、過去のトラッキングから“ためらい行動”をとった顧客に対してインセンティブを訴求する「ためらい行動者向け施策」や、データから旅行の計画者(幹事役)を割り出してアプローチする「計画マン向け施策」などがあり、一定の成果をあげています。
同社がTealiumを利用する目的は、複数の実装を委託先任せにすることなく自社内で管理して開発効率を高めるためです。
大日向氏は「CX最大化には、企画、実行、検証すべてのステップで工夫が必要で、ツールを使ってきめ細かく実行しなければ素晴らしい企画も伝わりません。その点においてTealiumは顧客インサイトに基づく施策を機敏に表現してくれるツールです」と話します。
【ユーザー事例講演】株式会社ジェイアール東日本企画
データドリブンマーケティングと“移動者”プロファイルを活用したコミュニケーション
続いて、JR東日本グループの広告・マーケティング事業を担うジェイアール東日本企画(jeki)から、上級執行役員 デジタル本部 副本部長 デジタルソリューション局 局長の萩原 浩平氏と、デジタルソリューション局 ソリューション第四部の後藤 充希氏が登壇し、同社のTealium活用事例を紹介しました。
jekiでは、「移動」と「消費」の相関関係に基づく「移動者マーケティング」を展開しています。2019年にはデータ分析・活用の専門集団であるjeki Data-Driven Lab(JDDL)を設立し、jekiと共同でデータソリューション「jeki移動者DMP」を開発しました。jeki移動者DMPでは、JR東日本アプリのアクセスログ、GPS位置情報、アプリ内アンケート結果などを取得し、ユーザーの移動と消費の傾向を分析しています。
萩原氏は「jekiでは、開発集団のJDDLとともに、データ収集からデータ分析、戦略構築、施策実行までをカバーし、お客様のデータドリブンマーケティングを支援しています」と語ります。
「移動者DMP」と並び、もう1つのデータドリブンマーケティングに利用しているのが、位置情報を利用したスマートフォンゲーム「とれすごタウン」です。とれすごタウンでは、首都圏在住者の2,300万人強の移動ログデータを取得し、ゲーム内行動データ、アンケート調査データ、クーポンによる購買データ等を掛け合わせて移動者の行動を分析しています。データマーケティング環境にはTealium CDPを採用し、データに基づく新たな価値の提供を目指しています。
その中で、「過去1カ月で来訪経験がある駅へは、低いハードルで移動を創出できる」いという仮定のもと、JR東京駅の来訪経験者に対して、期間限定のクーポンをセグメント配信した施策では、CVRがALL配信と比較して13.7倍向上しました。JR原宿駅を対象に実施したABテストでも、過去の来訪経験者は非来訪者に対してCVRが5.1倍向上しています。
後藤氏は「“鉄は熱いうちに打て”の格言通り、大量の情報が飛び交う中ではリアクションを起点にしたリアルタイムコミュニケーションがCXの最大化につながることがわかりました。Tealium CDPは、リアルタイム性、使いやすさ、スピードの3点においてメリットが大きく、とれすごタウンのプロジェクトに不可欠なデータ活用基盤となっています」と語ります。
【ユーザー事例講演】日本電気株式会社(NEC)
顧客データがつなぐ営業とマーケティングのデジタルシフト
ユーザー事例の3件目は、NEC IMC統括部 マーケティングマネージャーの中島 拓也氏が、同社が進める営業DXとTealiumの活用について解説しました。NECは1990年代より社会や市場に合わせて営業スタイルを変化させてきましたが、コロナ禍でスタイルは一変し、変化に対応するレジリエンスが求められるようになりました。そこで、営業の重要要素を、制度/プロセス、IT/データ、組織/人材の3つとし、それぞれの整合性をとりながら全体最適を図っています。
制度/プロセスでは、デジタルマーケティングとインサイドセールスを活用した「ハイブリッド型」営業活動へと転換。IT/データでは、営業、インサイドセールス、マーケティングの3者が協業し、SFAに蓄積したデータ起点で施策改善を図る体制に改めました。組織/人材についても、営業とサービスの32部門に対してオンラインセールス育成トレーニングを実施し、さらに全社横断のコミュニティを構築しました。
営業DXの取り組みの中で、営業とデジタルマーケティング部が施策を実施する際、Tealiumはタッチポイントの実績から顧客をセグメント化し、コンバージョン率を高めることに利用しています。さらに、Webパラメータと連動して行動履歴を把握し、施策効果測定と広告やメール配信の最適化等に活用しています。
今後は、見込み顧客の創出だけでなく、その先のプロセスにもCDPでデータを統合・分析し、定量的な戦略立案、マーケティング活動の効率化等を進めていく予定です。
中島氏は「TealiumとCDPのデータを連携し、タッチポイントと連動した顧客ターゲティングを目指します。さらに、Tealiumのタグマネジメントとコンセントマネジメントの連携により、改正個人情報保護法対応の同意管理を強化していきます」と語ります。
【ユーザー事例講演】株式会社サザビーリーグ
デジタルトランスフォーメーションに向けたデータ活用の取り組み
続いて登壇したサザビーリーグ DX推進室 デジタルマーケティング部 部長の草野 吉隆氏は、同社が2021年度から取り組んでいる統合顧客基盤の構築について解説しました。
同社は、ファッション、小物類、雑貨・飲食のブランドを40種類運営し、そのうちの20以上のブランドでECサイトを展開しています。しかし、ECサイトは個別に運用しており、顧客データも統合されていませんでした。そこでオンラインとオフラインの往来によって顧客の足跡を集め、店舗とWebの双方の送客を実現することを目指して、統合顧客基盤の構築に取り組んでいます。「統合顧客DBによる顧客データの一元管理、CDPによるデジタルとリアルのデータ統合、MAによる顧客アプローチの強化、BIによる可視化の4つによってDXを推進し、全体最適とシナジーに向けた環境を構築することが狙いです」と草野氏は語ります。
この施策において中心に位置付けられるのがCDPであり、同社ではTealium Customer Data Hub(Tealium CDH) を採用しています。
草野氏は「TealiumはコアとなるCDPだけでなく、その手前となるタグマネジメント製品もあり、CDPとシームレスに連携することができます。加えて、改正個人情報保護法に対応するための同意機能も用意しています。そのため、リアルタイムに顧客データをオーケストレーションすることが可能です」と語ります。
今後は、オンラインのECデータと統合顧客DBのオフラインデータをTealium CDHに集約し、DWHやBIツールで分析しながら、MA他の実行ツールを駆使してさまざまな施策を展開していく計画です。草野氏は「統合顧客基盤を活かして、ECの売上向上、店舗来店とOMO促進、顧客体験とロイヤルティ向上によるLTV改善を進めていきます」と締めくくりました。
【パートナー事例講演】Braze株式会社
消費者トレンドから紐解く、カスタマーエンゲージメントに必要なアプローチ
ユーザー事例に続き、Tealiumと連携するソリューションを提供しているパートナーの事例として、Braze アライアンスマネージャーの北川 祥三氏が、同社の統合型カスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Braze(ブレイズ)」を紹介しました。
Brazeは、グローバル全体で約1,400社の顧客を持ち、BtoC事業を展開する世界中のエンタープライズ企業が採用している統合型カスタマーエンゲージメントプラットフォームです。Tealiumとのパートナーシップにおいても、相互連携によって数多くのシナジーを創出しています。
北川氏は「Brazeは、オフラインデータの補足や同意に基づいた顧客プロファイル管理、行動イベントのリアルタイム連携により、カスタマーエンゲージメントの高度化を実現しています。Tealiumとの連携では、コネクターによるリアルタイム連携に加え、Brazeで実行したエンゲージメントデータのフィードバックも容易に行うことができるため、分析と施策の実行が分断されない世界を双方に用意することが可能です」と語ります。
Brazeが提供するバリューには、リアルタイム(瞬時)、オムニチャネル(常時)、スケーラビリティ(すべての顧客に)の3つがあります。その最大の特徴は、人と人との心触れ合うつながりを重視していることにあります。北川氏は「一般的なMAは、事業者を主体したもので、画一的な事務作業を効率化するために作られています。結果として、顧客の心情や状況に関係なく、ばらばらのチャネルで画一的なプロモーションが一方的に送られることになります。それに対して、Brazeは顧客の360度理解を踏まえてあらゆるチャネル/接点において、顧客が求める意味のある情報を統一感を持って提供しています。Brazeは、記憶に残る体験をリアルタイムに提供することで、人間的なコミュニケーションを実現し、消費者体験の革命を起こします」と話します。
【パートナー事例講演】アマゾンウェブサービスジャパン合同会社(AWS)
Tealium x AWS で実現する Customer Experience
パートナー事例の2件目は、AWS アナリティクス事業本部 シニア事業開発マネージャーの甲谷 優氏が、TealiumとAWSの分析サービスによるデジタルマーケティング基盤について解説しました。
CDP構築時の課題には、分散したデータの集約、アクションにつながるインサイトの実現等があり、それらを解決する必要があります。さらに、顧客360°ビューによって適切なビジネス意思決定、深い顧客の洞察、データドリブンな意思決定、顧客が求めるコミュニケーション、冗長化された顧客データ、コンプライアンス対応、データガバナンスの7つを実現することが、CXプロジェクトの実行能力の獲得につながります。
この顧客360°ビューの実現に必要不可欠な機能を提供するのが、TealiumとAWSによるデータ活用基盤です。データソースには、Web、モバイル、SNS等の「デジタルデータ」と、ERPやCRM等のシステムで管理している「オフラインデータ」の2つがあります。デジタルデータはTealiumを活用して抽出し、オフラインデータは各システムからAWSで構築したデータレイク(Amazon S3)上に抽出します。
オフラインデータとデジタルデータの連携には、Tealiumがハブとなってデジタルデータをデータレイクに転送します。これによりマーケティングに必要なデータは、データレイク上で一元的に管理されることになります。蓄積したすべてのデータは、Tealiumを介してマーケティング施策ツールと連携したり、AWS上に構築したDWHを介して、BIツール(Amazon QuickSight)や機械学習(Amazon SageMaker)で分析したりすることができます。
甲谷氏は「TealiumとAWSの連携によるメリットは2点あります。1つは、オフラインとデジタルデータを統合し、顧客360°ビューに基づくマーケティング施策が実施できること。2点目は、データ収集、分析、評価、施策の実施のPDCAサイクルを回すことで、実施効果を見ながら改善できることにあります」と語ります。
講演のレポートは以上になります。2021年に続きオンライン開催となりましたが、2022年も多くの方々に視聴いただきました。各社の事例を最新のCX戦略にお役立てください。